関東地方も梅雨入りし、空模様が気になる季節になりましたね。
雨の日でも美術館ならゆっくり快適に過ごせますよ。
美術館へ行きましょう。
今回は東京都美術館で開催されている「バベルの塔」展へ行ってきました。
今は夏休み前で、大型の展覧会はあまり開催されていないので、美術に詳しくない人でも「これ、見たことあるかも」と思える作品に出会える展覧会はこの「バベルの塔」展くらいでしょうか。
平日の16時過ぎに行きましたが、なかなかの人出でした。
終了が近づくとより一層混みそうな雰囲気なので、今のうちがオススメです。
この展覧会は、タイトルの通り、ブリューゲルの「バベルの塔」という作品をメインに据えて、この作品に至るまでの15~16世紀のネーデルラント(オランダ、ベルギー)地方の芸術表現の変遷をたどったものです。
この時代の絵画の発端は、文字の読めない一般市民にもビジュアルでキリスト教の教義や伝説が理解できるようにした宗教画です。
なので、細密に丁寧に描かれた絵画や木彫にも作者の記名がないものが数多くあるんですね。
芸術家の作品というよりは職人の仕事という感じでしょうか。
しかし、そのクオリティは完全に芸術作品だといえるものです。
入館してすぐの木彫の聖人像はどれも細密に彫られており、非常に写実的な作品です。
名もなき人の作品であることが惜しいと思えますよ。
そして、絵画として最初に展示されているディーリク・バウツの『キリストの頭部』という作品には心を引き寄せられる何かを感じます。
見れば油彩画だとわかりますが、でも「本当に絵画?」と思わせるような透明感や、見ている人の内面まで見透かしているのではないかと思える
キリストの目力に心奪われます。
この時代はまだ絵画が発展し始めの段階であっただけに、オリジナリティよりも、より人間に忠実に描こうとしていたのかもしれませんね。
だから、本物の人間を超えるくらいの本物感がでているのかも、と思ったりしました。
現代のVRがより現実感を突き詰めようとしていることと同じですね。
この後、16世紀の宗教画や風景画の展示がありますが、どれも描写が細かい。
メインとなる人物や風景が丁寧であることは言うまでもありませんが、遠くの背景まで細かく描き込まれていることには正直驚きます。
しかも、写実的に。
これだけの仕事をするにはどれだけの時間と労力と気力を要したのだろうと思わずにいられません。
衝動のままに一気に書き上げるものも芸術で、ここまで細かいものも芸術。
面白いですね。
ただ、これらの一見写実的な作品も、よくよく見てみると単に写真のように現実をそのまま写しとったものではないことがわかります。
顔のサイズに対して手が小さすぎたり、距離感的に背景が小さすぎたり。
現実的な表現をしながらも、その画面の中での主題や作者の意図が最もバランスよく表現できるように再構成された結果の構図であることがわかります。
作者の美意識や主張が読み取れて面白いですよね。
そしてボス。
奇想の画家と呼ばれるボスの作品は、ここまでの写実的な絵画群とは一線を画す独創的なモチーフばかりです。
ボロボロの服を見にまとった放浪者が描かれていたり、樹木人間が出てきたり…。
でも、全てに意味があるんですって。
頭の中で思いついた空想を描いているようで、実は現実世界の中に見てとった様々な不安や危機、人間の本質などを風刺的に描いているんです。
これは解説を聞きながら見ると100倍超面白いので、ぜひ音声解説を利用されるといいですね。
ボスの世の中を見通すセンスがあればこそ、このような作品が表現できたということがよくわかります。
こんなボスの作風に影響を受けたブリューゲルや他の画家たちの版画も多数展示されています。
が、これが全て細かい。
作品自体も30cm弱の画面の中に多くの題材が彫り込まれている(ウォーリーを探せの版画版のようなイメージ)ので、よく見ないと何が描かれているのかわからない。
これを見る人の進みも遅く、かなり見づらいことは覚悟しておいたほうがいいと思います。
ただ、描かれている内容は当時の生活の様子であったり、人々の喜怒哀楽であったり、ヘンテコなものであったり。
じっくり一人一人の表情を見て、その裏にあるストーリーを考えてみたくなりますよ。
そして、最後に「バベルの塔」。
混んでいました。
私が行った時には三層くらいに人垣ができており、勇気を持って前に進まないといつまでたっても満足に見られない状態でした–;
この「バベルの塔」、作品自体はあまり大きなものではないので、実物を見ただけでは、その魅力が理解できたとは言い切れません。
この展示のすぐ隣に解説用の3DCG映像シアターがありますので、こちらを見た上でもう一度実物を見ると、知識なしで見た時とは全く異なるバベルの塔が見えてきます。
この展覧会で宗教画、細密画、生活画を見てきたのが最後で一つに繋がりとてもスッキリします。
壮大で夢のある大きなテーマの作品も、いかに多くの細かい配慮が積み上げられた結果であるかということが。
あの塔を建てたのは「人」だということですよね。
あれだけ大きな塔を作るにはたくさんの人が関わっていて、それぞれにそれぞれのストーリーがあるというのは当たり前なんだけど、塔の壮大さにばかり目を奪われていると気がつきませんよね。
その一方で、あの壮大な「バベルの塔」のイメージを表現できたのは、過去に描かれた他のバベルの塔とは全く異なる「常識はずれ」だけど「合理的」な発想ができたブリューゲル「一人」だったということは
面白いですよね。
たった一人の天才が世界の見え方を変えて、そこにつながる多くの人々が新しい世界を作っていくのは昔も今も変わりませんよね。
「バベルの塔」の実物はなかなか間近で見られませんが、東京芸大による拡大複製画が間近で見られるのでこちらでも確認してみてください。
バベルの塔は、「人々が同一の言語を話す」からこのようなことを企むのだ、と神が考えたことで崩壊させられたとか。
そして人々はバラバラに隔絶され、異なる言語を話すようになり意思疎通ができなくなったとか。
現代はその言語の壁が科学技術の力で取り払われようとしていますよね。
スマホに話しかければ自動で翻訳してくれる。
それをバベルの塔のような巨大な企業が進めている。
バベルの塔がただの神話でないとしたら…。
人間の本質は昔から変わっていないことが一番面白いと思いました。
一人でゆっくりもいいですが、気の合う仲間とツッコミを入れながら周ってみると面白い展覧会だと感じました。
最後に、この展覧会は作品自体が小さく、描かれているものも細かいので、オペラグラスがあるといいですよ。
TAKU
【今週末オススメの展覧会情報】
・ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
東京都美術館【東京都】
2017年04月18日~2017年07月02日
